はじめに
天馬グループは、2023年5月に、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明し、 TCFDの提言に基づいた、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」および「指標と目標」の4項目に関する情報開示に取り組んでいます。天馬グループは、「気候変動の緩和と適応」をマテリアリティ(重要課題)の一つとして掲げ、気候変動対応の強化に努め、持続可能な社会の実現と当社グループの持続的な企業価値向上の両立に向けて、グループ全体で戦略的にサステナビリティ活動を推進していきます。
※TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)
G20 の要請を受けて 2015 年に金融安定理事会(FSB)によって設立されました。企業等に対し、気候変動関連リスク及び機会に関する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」について情報開示することを推奨しています。(TCFD ウェブサイト:https://www.fsb-tcfd.org/)
ガバナンス
【取締役会の監視体制】
天馬グループは、気候変動を含むサステナビリティ課題が重要な経営課題であると認識しており、この課題解決に取り組むため、サステナビリティ推進室および代表取締役社長直下の組織としてサステナビリティ推進委員会を設置しています。
サステナビリティ推進室は、関連部署と連携し、温室効果ガス排出量の算定や気候変動シナリオ分析を主導し、サステナビリティ推進委員会は、気候変動対応を含むサステナビリティに関する基本方針やマテリアリティ(重要課題)の特定、特定したマテリアリティに対する取り組み方針の策定や進捗管理、サステナビリティ関連の情報開示に関する事項等の審議を行い、取締役会への上申を行うとともに、適宜、取締役会に本委員会の活動・進捗状況を報告する体制としています。また、マテリアリティに対する具体的な取り組み等について討議し、サステナビリティ活動を推進するため、必要に応じて委員会直下にワーキンググループを設置し、グループを挙げて取り組む体制としています。
取締役会は、サステナビリティ推進委員会から、適宜、報告および提案を受けて議論、決議をするとともに、気候変動を含むサステナビリティ課題に関する取り組み全般を監督しています。
【経営者の役割】
代表取締役社長は、取締役会の議長を担い、気候変動への対応を含む経営計画やマテリアリティの策定等、サステナブル経営に関する指揮・監督を行うとともに、サステナビリティ推進委員会の委員長に係る任命権限を有しており、気候関連課題に対する最高責任を有しています。
戦略
天馬グループにおける事業戦略のレジリエンスを評価するため、気候関連リスクおよび機会について、シナリオ分析を実施しています。
【シナリオ分析プロセス】
気候関連リスク・機会について以下のプロセスにより識別・評価を実施し、対応策を検討しています。
- リスク・機会の識別
- 気候関連リスク・機会項目を幅広く抽出し、リスク・機会の事業影響の大きさに基づき、重要性の高いリスク・機会を識別
- シナリオの作成
- リスク・機会項目に関するパラメータの客観的な将来情報を⼊⼿し、シナリオを作成
- 財務影響の測定
- 作成したシナリオを基に、重要性の高いリスク・機会に関する2030年度の財務影響を測定
- 対応策の検討
- 測定した財務影響を基に、リスク低減および機会獲得を目的とした対応策を検討
【シナリオの概要】
IEAなどの科学的知見に基づくレポートやパリ協定をはじめとする国際動向を踏まえ、低炭素社会へ移行する1.5℃シナリオおよび温暖化が進行する4℃シナリオを選択しました。
シナリオ | 概要 | 参照した主な参考文献 |
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1.5℃ シナリオ |
2050年に温室効果ガス排出量をネットゼロとするため、炭素税や排出量取引、プラスチック規制など、脱炭素に向けた政策が強化されます。 それに伴い、温室効果ガス削減取組の要請、バージンプラスチックから再生・バイオプラスチックへの移行、低炭素製品等の需要拡大が想定されます。 なお、気温上昇が抑えられることから、物理的な影響は大きくないことが想定されます。 |
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4℃ シナリオ |
化石燃料への依存により経済が発展し、気候変動に対する政策は十分に講じられず、脱炭素技術はあまり進展しません。 一方で、気温上昇に伴い、空調設備や熱中症対策の必要性が高まるとともに、洪水などの気象災害の激甚化が生じ、物理的な被害が拡大することが想定されます。 |
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【識別した重要なリスク・機会、財務インパクトおよび対応策】
財務インパクト | 小:1億円未満 | 中:1億円~10億円未満 | 大:10億円以上 |
時間軸 | 短期:0~3年未満 | 中期:3~10年未満 | 長期:10~30年 |
1.5℃シナリオ
分類 | 気候変動 ドライバー |
想定 | 事業への影響 (潜在的な財務影響) |
リスク/機会 | 時間軸 | 財務 インパクト |
対応策 |
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政策・ 法規制 |
炭素税・排出量取引制度の導入 | 炭素排出の負担が発生する | 炭素税等の転嫁による調達コストの増加(調達コスト増加) | リスク | 中~長 | 大 |
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炭素税等の転嫁による物流コストの増加(物流コスト増加) | リスク | 中~長 | 中 |
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Scope1,2に炭素排出の負担が生じる(Scope1,2に係る炭素税等のコスト増加) | リスク | 中~長 | 大 |
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Scope1,2削減により、将来の炭素排出負担が減少する(Scope1,2に係る炭素税等のコスト減少) | 機会 | 中~長 | 中 | ||||
プラスチック規制の導入 | バージンプラスチック課税の負担が発生する | 主要な原材料である石化由来プラスチックの価格が上昇する(調達コスト増加) | リスク | 中~長 | 大 |
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低炭素製品の開発により石化由来プラスチックより安価な原材料が使用できる(調達コスト減少) | 機会 | 中~長 | 大 | ||||
再生プラスチックやバイオプラスチックの使用率が設定される | 再生プラスチック・バイオプラスチックを一定割合使用する必要が生じる(調達コスト増加) | リスク | 中~長 | 大 | |||
市場 | 素材の価格上昇 | 低炭素・循環型社会の進展による再生プラスチックやバイオプラスチックの需要増加に伴い、価格が上昇する | 原材料である再生プラスチック・バイオプラスチックの価格が上昇する(調達コスト増加) | リスク | 中~長 | 大 |
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低炭素や循環型社会に対する顧客の意識の高まり | 顧客から低炭素エネルギーの利用やカーボンニュートラルの達成が要請される | 低炭素エネルギーの導入やカーボンニュートラルを達成する必要が生じる(カーボンニュートラルに向けた対策費用増加) | リスク | 中~長 | 中 |
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低炭素製品を志向する顧客が増加する | 低炭素製品を志向する顧客が増加することにより、石化由来プラスチックを使用した製品に関する販売機会を喪失する(石化由来プラスチック製品の売上高減少) | リスク | 中~長 | 大 |
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再生プラスチックやバイオプラスチックを使用した低炭素製品に関する販売機会が増加する(低炭素製品に関する売上高増加) | 機会 | 中~長 | 大 | ||||
プラスチック製品の3Rへの取り組み要請が高まる | プラスチック循環スキームに関わる費用が増加する(回収・再資源化費用の増加) | リスク | 中~長 | 大 |
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プラスチック循環スキームの構築により、リサイクル製品の販売機会が増加する(リサイクル製品の売上高増加) | 機会 | 中~長 | 大 | ||||
小売電力 価格の上昇 |
電力会社が低炭素エネルギー(再エネやCCS等)に基づく発電に移行することにより、小売電力価格が上昇する | サプライヤーが購入する電気代が上昇する(調達コスト増加) | リスク | 中~長 | 大 |
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当社が購入している電気代が上昇する(電力コストの増加) | リスク | 中~長 | 中 |
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再エネ・省エネ設備の導入による電気代の削減(電力コストの減少) | 機会 | 中~長 | 中 |
4℃シナリオ
分類 | 気候変動 ドライバー |
想定 | 事業への影響 (潜在的な財務影響) |
リスク/機会 | 時間軸 | 財務 インパクト |
対応策 |
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物理 (急性) |
気象災害(洪水・大雨・台風等)の激甚化 | 気象災害によりサプライチェーンが寸断する | サプライヤーが気象災害に被災することにより材料・部品の納入が遅延する(操業停止による損失) | リスク | 短~長 | 小 |
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気象災害の被災により物流網が遮断され、出荷が停止する(出荷停止による売上高の減少) | リスク | 短~長 | 中 |
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気象災害により自社拠点が被災する | 気象災害の被災により棚卸資産・固定資産の損害が発生する(棚卸資産・固定資産の災害損失) | リスク | 短~長 | 大 |
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気象災害の被災により操業が停止する(操業停止による損失) | リスク | 短~長 | 中 | ||||
気象災害により納入先が被災する | 納入先が気象災害に被災することにより当社製品の納入が遅延若しくは停止することに伴い、当社の操業が停止する(操業停止による損失) | リスク | 短~長 | 中 |
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気象災害の激甚化によりBCPの重要性が高まる | BCP対策の強化見直しが必要になる(BCP対策費用の増加) | リスク | 短~長 | 中 |
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物理 (慢性) |
平均気温の上昇 | 気温上昇に対応するために空調設備の必要性が高まる | 当社拠点における空調設備への投資や空調稼働によるコストが増加する(空調稼働費用や設備投資費用の増加) | リスク | 短~長 | 中 |
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空調機器に関連する販売機会が増加する(販売機会増加による売上高の増加) | 機会 | 中~長 | 中 |
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熱中症等が発生する可能性が高まる | 屋外作業における熱中症対策費用が増加する(熱中症対策費用の増加) | リスク | 短~長 | 小 |
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気温上昇により熱帯性の感染症が増加する | 感染症の流行により操業が停止する(操業停止による損失) | リスク | 中~長 | 大 |
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【シナリオ分析の結果】
1.5℃シナリオにおける事業への影響では、カーボンニュートラル実現を目指した取り組みが進み、炭素税や排出量取引、プラスチック規制など、脱炭素に向けた政策が強化されることにより、原材料等の調達コストや電力等の操業コストが増加することが想定される一方、環境に配慮した低炭素製品等の販売機会が増加することが想定されます。
4℃シナリオにおける事業への影響では、気温上昇に対応するための空調設備等への投資や熱中症対策に係る費用の増加が想定されます。また、気象災害の激甚化による当社グループの事業拠点の被災やサプライチェーンの寸断により操業が停止することが懸念されます。
シナリオ分析の結果は、天馬グループの長期ビジョンや中期経営計画へ反映し、対応策の実行および進捗状況のモニタリングを行うことにより、レジリエンスな戦略の構築を進めてまいります。
リスク管理
【気候関連リスクを識別・評価・管理するプロセス】
サステナビリティ推進室は、関連部署と連携して、気候関連リスク・機会を幅広く抽出し、リスク・機会の事業に対する影響度をもとに、重要なリスク・機会の識別および評価を行い、対応策を検討しています。
シナリオ分析の結果やリスク・機会に関する対応策の進捗状況は、定期的にサステナビリティ推進委員会および取締役会へ報告しています。
【気候関連リスク管理と全社的リスク管理の統合状況】
天馬グループは、グループ横断的なリスク管理体制の整備、運営を行い、リスクの網羅性の確保を図るとともに、重要リスクを抽出しリスク軽減措置をとることにより、グループ全体のリスクコントロールを図ることを目的として、リスク管理統括責任者を長とし、総務部内部統制室を事務局とするリスク管理委員会を設置しています。
シナリオ分析により識別されたリスクは、必要性に応じて、リスク管理委員会に報告や提言を行うことにより、気候関連リスクを全社的なリスク管理へ統合しています。
指標と目標
【気候変動のリスク・機会に関する指標と目標】
天馬グループは、「気候変動の緩和と適応」をマテリアリティ(重要課題)の一つとして特定しており、気候関連リスクおよび機会を測定・管理するために、Scope1およびScope2の排出量を指標として定めています。
2050年カーボンニュートラル達成を目指すため、天馬グループの中期目標を「2030年度までにGHG排出量(Scope1+2)を2019年度比で30%削減」および「2030年度までにGHG排出原単位((Scope1+2)/売上高)を2019年度比で43%削減」に設定しました。
また、日本政府の「2030年度に温室効果ガス(GHG)排出量を2013年度から46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向け挑戦し続ける」という方針を踏まえ、単体の中期目標を「2030年度までにGHG排出量(Scope1+2)を2013年度比で60%削減」に設定しました。
天馬グループは中期目標の達成に向けて、省エネ設備の導入、再生可能エネルギーの活用、高効率な生産体制を構築することによるエネルギー効率の向上等に取り組んでまいります。
GHG排出量削減の中期目標
指標 | 範囲 | 基準年 | 目標年 | 目標 | 2023年度 実績 |
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GHG排出量(Scope1+2)削減率 | 連結 | 2019年度 | 2030年度 | ▲30% | ▲21% |
単体 | 2013年度 | 2030年度 | ▲60% | ▲57% | |
GHG排出原単位※ 削減率 | 連結 | 2019年度 | 2030年度 | ▲43% | ▲27% |
※GHG排出原単位:GHG排出量(Scope1+2)/売上高
【Scope1・Scope2の排出量実績】
集計対象期間:単体は4月~翌3月、連結子会社は1~12月を対象
(連結)(t-CO2)
2022年度 | 2023年度 | |
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Scope1※ | 2,397.8 | 1,924.1 |
Scope2※ | 99,180.2 | 84,207.2 |
Scope1+2 | 101,578.1 | 86,131.3 |
GHG排出原単位 | 1.00 | 0.93 |
(単体)(t-CO2)
2022年度 | 2023年度 | |
---|---|---|
Scope1 | 909.2 | 779.2 |
Scope2 | 11,084.6 | 10,082.7 |
Scope1+2 | 11,993.9 | 10,861.9 |
※Scope1:直接的な温室効果ガス排出量
※Scope2:間接的な温室効果ガス排出量
GHG排出量削減に向けた取り組み状況
天馬グループでは、GHG排出量削減に向けて、射出成形機の電動化、照明設備のLED化、空調設備の更新などの省エネ施策を推進しています。
また、自社投資による太陽光発電設備導入のほか、オンサイトPPA(Power Purchase Agreement、電力販売契約)を活用した太陽光発電設備の導入により、再生可能エネルギーを活用したGHG排出量削減に取り組んでおります。
今後も再生可能エネルギーの利用拡大に取り組んでいきます。